岡根谷実里さんの初の著書となる『世界の台所探検』についてインタビュー。世界各地の台所を歩いて感じた食への想いとは。
世界の台所に行って感じるのは、“居させてもらえる”という感覚。
世界各地の台所をめぐり、現地の人と一緒に料理や食事をして楽しむ様子をまとめた『世界の台所探検』。まずグッときたのが、著者・岡根谷実里さんの「世界の台所探検家」という肩書きです。「『あなたのやっていることはなんだろうね』と、同じ職場の先輩と一緒に考えていたんですね」と、命名のきっかけを教えてくれます。「“研究家”だと詳しくないといけないような感じがするし、“料理家”というほど自分の創作を提案したいわけでもない。そんななかで出てきた“探検家”という言葉が気に入って」。そう、まさに台所を探検するように、知らない世界の普段触れることのない暮らしや文化に触れ、体験する。そうして「料理を通じて、世界を近づけたい」という想いから、でした。もともと「ずっと旅をしていたい!」と思うほど、世界の暮らしへの好奇心でいっぱいの岡根谷さん。特に興味をそそられてしまうのが台所だそう。「日本だと壁に向かって調理をする場、というイメージですが、それだけじゃなく、社交や楽しみの場でもある。たとえばインドネシアや中東の国々では、女性たちはなかなか自由に外出できないので、家の中で堂々とできる娯楽という一面もあるようなんですね」
食を通じて遠い国の人たちがより身近に
紹介されているのは約16カ国。国や地域によって、考え方やスタイルは 実にさまざま。「あとは、やっぱり人ですね。人の数だけ暮らしがありますし、『あの台所にまた行きたいな』と思う理由でもあるんです」読んでいて本当にワクワクするのは、現地の人たちのキャラがなんともいきいき描かれているところ。手伝おうとして作業を代わったら、要領が悪くすぐに取り返されたり、よそ見をして作業の手が止まっているとたしなめられたり。そんな臨場感たっぷりのエピソードから感じ取れるのは、岡根谷さんが現地の人たちに、びっくりするほどすっかりなじんでいること。「世界の台所に行って感じるのは、“居させてもらえる”という感覚。最初は『お邪魔するからには、何かの役に立ちたい』と思っていたけれど、お邪魔というより、おもしろがってくれる。なので『これやりたい!』とか普通に言えるし、言葉が通じなくても、意思疎通ができるんです」。食を通じて楽しい時間を分かちあうことで、笑顔が広がる。遠い国の人たちのことが、より身近に感じられる。「どこか世界が遠くなってしまったような今だからこそ、当たり前の暮らしを伝えたくて」
『世界の台所探検 料理から暮らしと社会がみえる』
岡根谷実里/¥2,200(青幻舎)
インドネシアやタイ、ブルガリア、キューバ、イスラエルなど、世界じゅうを訪れ、現 地の人と一緒に料理や食事をし体験した様子をふんだんな写真とともに紹介するエッセイ。知られざる現地のリアルが感じ取れる、文化人類学的視点で読むとさらに興味深い。教わった料理を再現できるレシピ13品も収録。
photograph:Shinnosuke Soma text:BOOKLUCK
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